脂肪肝(Fatty Liver)とは
脂肪肝とは、肝臓に過剰な脂肪が蓄積した状態の病気です。脂肪肝を発症すると、血液検査でγGTP、AST、ALTといった肝機能項目の数値が高く現れます。
主な原因は運動不足や過度の飲酒、メタボリックシンドロームなどで、肥満や高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病と深い関係性があるとされています。
従来は肝硬変や肝臓がんとの関連性が明らかにされていなかったため、特に治療は行われませんでしたが、近年では飲酒習慣がないにも関わらず発症する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)によって肝臓に慢性的な炎症が起き、肝機能を低下させて肝硬変や肝臓がんに進行する可能性が確認されたため、積極的に治療を行う必要があります。
また、脂肪肝は急性肝炎や慢性肝炎などの合併症を引き起こしていることもあるため、自己判断で放置してしまうことはリスクを伴います。近年では非アルコール性脂肪性疾患(NAFLD)が増加傾向にあり、成人の9〜30%が発症しているという報告もあります。非アルコール性脂肪性疾患(NAFLD)は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と同様に、肝硬変や肝臓がんの発症リスクを高めるため、注意が必要です。
なお、アルコール性の場合は、5年以上多量の飲酒習慣を続けることで肝障害を引き起こします。具体的には、純エタノールに換算して60g以上/日の飲酒が多量の飲酒と定義されます。ただし、女性や日本人に多く見られるALDH2欠損者の場合は、40g/日程度でもアルコール性肝障害を引き起こす恐れがあるとされています。
脂肪肝は過剰な脂肪が蓄積した状態ですので、食事習慣を見直したり運動習慣を取り入れることで改善することが可能です。検診等で脂肪肝を指摘された場合は、生活習慣を改善することを心がけましょう。
適度なアルコール摂取量は1日平均20g程度
種類 | 量 | アルコール度数 | アルコール換算量 |
---|---|---|---|
ビール(中瓶1本) | 500ml | 5% | 20g |
日本酒 1合 | 180ml | 15% | 22g |
焼酎 1合 | 180ml | 35% | 50g |
ワイン(1杯) | 120ml | 12% | 12g |
ウイスキー ダブル | 60ml | 43% | 20g |
ブランデー ダブル | 60ml | 43% | 20g |
脂肪肝になるとどんな症状がでる?
脂肪肝は、初期の段階ではほとんど自覚症状がありません。肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、ダメージを受けても症状が出にくい特徴があります。そのため、脂肪がたまっても気づかないうちに進行してしまいます。
しかし、脂肪肝が悪化すると肝炎を引き起こし、さらに進行すると肝硬変になることもあります。
血液の流れが悪くなることで、
- 肥満
- 食欲不振
- 全身のだるさ
- 右上腹部の痛み
- 足のむくみ
- 集中力の低下
こうした症状が出るころには、病気がかなり進んでいる可能性があるため、早めに医療機関を受診しましょう。
また、脂肪肝は生活習慣病やメタボリックシンドロームとも関係があり、動脈硬化を引き起こしやすくなります。さらに進行すると狭心症、心筋梗塞、心不全などの重い病気につながることもあります。脂肪肝は放置せず、早めの治療と生活習慣の改善が大切です。
脂肪肝の検査
血液検査だけでは脂肪肝と診断できません。お腹の超音波検査などとあわせて診断します。
血液検査
中性脂肪(TG)
空腹時に行う血液検査です。食べすぎ・飲みすぎや運動不足によって、余ったエネルギーが脂肪に代わると数値が高くなります。
GOT(AST)・GPT(ALT)
肝臓の働きが悪くなると数値が上がります。
脂肪肝では特にALTが上昇します。
γーGTO
お酒の飲みすぎ、薬を長く服ゆすること、胆石などが原因で数値が上がります。
脂肪肝の場合もALTが上昇します。
コリンエステラーゼ(ChE)
食べ過ぎなどで栄養が多すぎると数値が高くなります。
肝臓の働きが弱ると数値が低くなり、肝硬変の疑いがあります。
ChEが高く、ほかの肝機能数値が正常なら、慢性的な栄養不足が考えられます。
脂肪肝を腹部超音波検査で確認すると
腹部超音波検査では、お腹にゼリーを塗り、超音波の機械をあてて内臓を観察します。
脂肪肝の場合、腹部超音波検査を受けると、肝臓が白っぽく映る肝腎コントラストという状態を確認できます。
また、脂肪肝の肝臓は肥大化しているため、通常より大きく映ります。
脂肪肝の治療
上記の通り脂肪肝は生活習慣病の一つのため、治療は生活習慣の見直しが第一となります。具体的には、食事習慣の改善や節酒・禁酒、適度の運動習慣の導入などを行い、体脂肪率を下げて脂肪肝の改善を図ります。
ただし、近年増加傾向にある非アルコール性脂肪性疾患(NAFLD)などの場合では、生活習慣の見直しでは症状を改善できないこともあります。その際には薬物療法を行いますが、脂肪肝の特効薬は現在ではまだ存在しないため、脂質異常や糖尿病の薬を使用して改善を図ります。
当院では、知識や経験が豊富な医師が脂肪肝の診療を行いますので、ぜひご相談ください。
脂肪肝(肝脂肪)の減らし方
最も多い脂肪肝の原因は生活習慣の乱れのため、以下のような方法で生活習慣を改善します。
お酒は控えめに
アルコールは、飲み続けているうちに習慣になりやすく、つまみのカロリーも高くなりがちです。飲む量が多いほど、肝臓の病気にも近づいてしまいます。
お酒を飲むときに「ごはんは抜く」という方もいますが、栄養バランスがくずれてかえって太りやすくなります。主食・主菜・副菜をそろえた食事を意識しましょう。
主食・主菜・副菜をそろえた、バランスのよい食事を
毎日のごはんは、「主食(ごはんやパン)」「主菜(魚やお肉、卵、大豆製品)」「副菜(野菜やきのこ、海藻)」を組み合わせて食べるのが理想です。
1回の食事で、主食1品、主菜1品、副菜2品がそろっているのがよい形です。主食や主菜を2つ以上とると、エネルギーがとりすぎになりやすいので注意しましょう。大皿で出すよりも、1人分ずつお皿に分けると、どれだけ食べたか分かりやすくなります。
外食のときは、定食のようにいろいろな品がそろっているメニューを選ぶのがおすすめです。丼ものや麺類など単品のときは、小鉢の野菜をプラスするなど工夫しましょう。
野菜・きのこ・海藻で、食物繊維やビタミンをしっかりと
野菜などに含まれる食物繊維は、糖や脂肪の吸収をゆるやかにしてくれる働きがあります。また、カロリーが少ないので、食事のはじめにしっかり食べると食べすぎ防止にもなります。
野菜は1日350gが目安です。足りないときは、副菜を2品にするなど工夫してみましょう。
糖分・脂肪のとりすぎに注意しましょう
甘いお菓子やジュース、果物には糖分が多く含まれています。少しのつもりでも、間食が重なるとカロリーオーバーになりやすいです。
食事に気をつけていても、間食が多いと意味がなくなってしまうこともあります。甘いものは控えめを心がけましょう。
果物のとりすぎも脂肪肝の原因に
果物は体にいいイメージがありますが、「果糖(かとう)」という糖分が多く含まれていて、たくさんとると脂肪としてたまりやすくなります。
「果物を食事がわりにしている」という人もいますが、食べすぎると脂肪肝や肥満の原因になることもあります。適量を意識して楽しみましょう。
運動をこまめに取り入れましょう
たとえば、お団子1本で約100kcalあります。60kgの人なら、これを消費するのに30分のウォーキングが必要です。
エネルギーを運動で消費するのは思ったより大変ですが、できることから始めましょう。
「今より1000歩多く歩く」ことを目標にしてみてください。1000歩はおよそ10分の散歩に相当します。
生活習慣を改善すると、血液検査では肝臓に関わる数値は比較的短期間で正常に戻りますが、腹部超音波検査では肝臓の状態は少しずつ改善していきます。血液検査は3〜4ヶ月後、腹部超音波検査は1年後に再検査を行なって経過観察します。
一方、脂肪肝を発症した場合は、高血圧や高脂血症、糖尿病など他の生活習慣病も合併していることが多いため、これら他の病気も同時に治療していくことが大切です。
当院では、脂肪肝とともに様々な生活習慣病の治療についても、包括的に対応しております。
よくある質問
脂肪肝を改善するには、どのような運動をすれば良いですか?
一般的に、脂肪肝を改善するには週に250分以上の運動をすることが良いとされます。したがって、1日30分以上の運動習慣を取り入れるようにしましょう。
脂肪肝を改善させるには、どのくらい痩せれば良いですか?
一般的な目安として、肥満症の場合は体重を5%減らせば、脂肪肝を約30%改善できるという報告があります。例えば、体重70kgの場合は、5%に当たる3.5kgを減量し、66.5kgを最初の目標にすると良いでしょう。
瘦せている場合、脂肪肝になることはありませんか?
痩せている場合でも、食生活の乱れや運動不足によって体重が2~3kg増加すると肝臓に中性脂肪が蓄積して脂肪肝を発症する恐れがあるため、注意が必要です。特に日本人は欧米人と比較して肝臓に脂肪が蓄積されやすい傾向があるため、脂肪肝になりやすいという報告もあります。
脂肪肝は治療によって正常な肝臓に戻りますか?
脂肪肝は単に肝臓に脂肪が蓄積している状態ですので、治療によって脂肪を減らせば元の状態に戻ります。ただし、脂肪肝が進行して肝硬変を発症すると、元に戻すことは困難になります。